「化学教育ジャーナル(CEJ)」第2巻第2号/採録番号2-19/受理1998年11月19日
URL = http://www.juen.ac.jp/sc ien/cssj/cejrnl.html


学校開放講座 「身近な科学」を終えて
 
                 埼玉県立春日部東高等学校 榎本繁一
 
1、はじめに
 
 平成4年度、本校での学校開放講座を理科が担当することになった。学校開放講座は県内だけでも100を超える学校で開講されているが、その内容は英会話・パソコン教室などという実務的なもの、文学・歴史関係の教養的なもの等が多い。「科学」をテーマとしたものはほとんどなく、県立伊奈学園総合高校など1、2校で開講されたことがあるだけのようである。「科学」をメインに据えたこういう講座に果たしてニーズがあるのか? という心配はあった。しかし、春日部市の公報、地区PTAでのパンフレット配布等、地域と学校のバックアップのおかげで、26名の参加者を得ることができた。この開放講座の模様をここに報告する。

 (この文章は、平成4年度春日部東高校研究紀要に載せた文章を加筆・訂正したものである。)

2、講座の目的 
 とかく「科学」というとムズカシイもののように思われがちなようである。そんなイメージを払拭するためにも、楽しい講座にしたいと私たちは考えた。講座名を「身近な科学」としたのもそういう意図があった。
 内容も文字通りこのままである。受講者募集のために配布したパンフレットには、次のように書いた。
「面白い実験をたくさん用意しています。身近な現象を科学の眼でとらえ,わかりやすく解説します。『科学はむずかしい』なんてことはありません。この講座で身近な科学の世界にぜひ親しんで下さい。」
 これが本講座の目的である。  
 また、講座を実施する私たちの側にとっても一つの目的があった。開放講座を通じて自らの授業の力量を高めたい、ということである。
 「理系離れ」が進行しているといわれているが、そんな中で、一人でも多くの生徒に理科の楽しさ、面白さを味わってほしいというのが私たち理科教員の共通した願いである。そのため、本校では、各教員が授業や実験でさまざまな取り組みをしている。今回の開放講座では、講座内容のほとんどを普段の授業で行っている内容(いわゆる授業ネタ)で実施することになる(もちろん多少のアレンジはするが)。授業と違って、興味が失せればその後は参加しなくなってしまうのが開放講座であるから、最後まで飽きさせないで参加してもらうことも大事な要素である。この講座は、「興味・関心をひきだし、理科(科学)に親しんでもらう」私たちの授業プランが、効果的なものかどうかを試す機会でもあった。
 
3、実施状況 
@形態
 講座は、参加される方々の都合を配慮し、毎週土曜日の午後1:30〜3:00の90分間、全10回シリーズとした。週休2日の浸透により、平日の夜よりも参加しやすいのではないかと考えた。
 講座は、原則として1回ごとに一人の者が講師となり、内容もその者が準備する。他の者はアシスタントをする。10回シリーズであるので、一人が1回の講座を担当する、というのが基本パターンとなる(当時、東高校の理科の教員数は9名であった)。
 各回の内容と、担当者は別表のとおりである。
 
A講座の様子
 9月19日に第1回講座「電気でパンを焼こう」が実施された。事前に欠席を連絡された1名を除いた25名の方が出席された。参加者の内訳は男性が2割、女性が8割である。年齢については聞かなかったが、大半が30代〜40代で、60代の方もいた。職業についても聞いていないが、小学校の教員の方もいたようである。
 参加された方々に共通していたことは、非常に熱心に取り組んでくれたということである。講義の内容等も一所懸命に聞かれていた。実験では目を輝かせ、驚きの声を上げられることもしばしばであった。質問も多数発せられ、授業とは違った雰囲気に、私たちも我を忘れて一緒になって講座を楽しんでいた。
 これはまた、私たちに対する大変な励みともなった。「こんなに喜んで頂けるのならば、頑張ってサービスしなくては!」という気持ちになったのである。講座内容の工夫にも一段と熱が入る。担当者と参加者の熱意が一つになって、講座が盛り上がっていったと言える。この素晴らしい雰囲気は、最後の回まで持続することができた。
 天候等の影響もあって出席者数に上下はあったが、最終的には24名の方が終了証を受けられたので、ほぼ全員の方が講座を終えることができたと言っていいだろう。
 
B開放講座通信
 今回の開放講座では、毎回講座を終えるごとにアンケートを実施した。参加された方の「満足度」と「理解度」を知るためである。どちらも5段階評価で、私たちの「授業(講座)」を採点してもらおう、というわけである。また講座を受けての感想・質問・要望等も書いてもらい、「授業(講座)」の方へのフィードバックを目指した。内容はまとめてB4の紙に印刷し、「開放講座通信」として毎回発行した。一方的に与えるだけの講座ではなく、受け取る側の意見も吸い上げて、双方向の情報交換を目指した。毎回のアンケートにはたくさんの意見が記入され、それを読むのが私たちの楽しみともなった。
 
4、講座の評価
 
 最終回にとったアンケートの結果を見ると、参加された方の講座に対する評価はかなり高いようである。「テーマの選定」「プリントなどの内容」にも高いポイントを頂いた。「『身近な科学』に参加する前と比べて、『科学』に対する興味は増したと思いますか?」という質問に対しても4.5ポイントを頂いた。当初の「科学の世界に親しみ、楽しんでもらう」という目的は果たせたのではないかと思う。
 また、もう一つの「開放講座を通じて授業の力量を高める」という目的だが、この講座のテキストを作成する過程において、改めて勉強をしたと思う。生徒とはまた違った観点からの感想や質問を通じて、新しい視点を得た思いもする。私個人としては、今回の講座用に新たなプランを作成したが、これはそのまま授業にも使えるものとなった。講座を担当した一人一人に、新たな財産を残してくれたのが今回の開放講座だったように思う。
参加者へのアンケート結果 
5、問題点・反省点
 
 今回の講座を通じて、いちばん大きな反省点は、時間だった。アンケート結果にも表れていたが、90分という時間は、長いようで案外短く、用意した内容を全部消化しきるにはいささか短かったようである。実際、終了予定を大幅に超過してしまったことも何回かあり、受講された方々に迷惑をかけてしまったこともあったかと思う。もっと余裕をもった計画を立てるべきであったかなと反省している。
 
6、おわりに
 
 今回の講座を通じて私たちが得た、いちばん大きな財産は、参加された方々の目の輝きだったと思う。いくつになっても、いろいろなものに興味をもち、勉強していくことの素晴らしさを教えてもらったような気がする。
 教科書の内容を覚えるだけの授業ではなく、「学ぶこと、学び続けることの楽しさ、面白さ」を伝えられるような授業をしなければならない、と痛切に感じた。
 12月12日に講座は最終回を迎えたが、12月24日に理科で研修会をもった。開放講座に参加された方からのアンケートの結果をもとに、「運営上・企画上の問題点」「講座の評価のポイント」「学校卒業後も学び続けることの出来る人の意識は、その他の人の意識とどこが違うのか」「その意識の違いを形成する原因・きっかけは、どこにあるのか」等のことを話し合った。
 私たちは最終的には「どうすれば、学ぶ意欲を育てることができるのか(これから授業を行うにあたって)」を考えていく必要がある。容易に結論の出る問題ではないが、開放講座に出席された方々のアンケートをみても、学生時代に理科の楽しさに触れることの重要性、そして実験が持つインパクトの大きさがうかがえる。私たちは、これからも研鑽を積み、授業をする力量の向上を目指していきたいと考えている。
            (文責 平成4年度教科主任 榎本繁一)
 
平成4年度 埼玉県立春日部東高等学校理科職員
物理  野原 忠英、 鈴木 成、 蛭間 督
化学  杉田 冨美雄、 榎本 繁一
生物  菅野 彰、 吉田 直史
地学  山田 進、 安孫子 典子
助手  湯浅 千枝、金子 晴美

本文先頭  CEJ第2巻第2号目次