栃木県立芳賀高等学校(現 宇都宮大教育学研究科理科教育専修院生)
大森 亮一
ga2273@i.bekkoame.ne.jp
1はじめに
金属イオンの沈殿反応と系統分離の実験についての画像を中心としたWWWページを作成した。WWWページ作成の動機、内容と特徴、授業における利用法などについて紹介する。
2ホームページ作成の動機
金属イオンの系統分離の実験は、高校生の実験としては難度が高いといわれている。生徒実験においては、「教師から指示された手順にしたがって操作して、最後まで正しく分離できるかどうか」が主眼となりがちである。生徒にとって、違う試薬を加えたらどうなるかということは興味のあることである。しかし、実際に様々な試薬を加えたり、誤った操作の理由を個々に吟味しながら実験することは、準備や時間的な制約により困難である。そこで、様々な試薬を加えた時の結果(画像)を自由にたどることができるようなWWWページをつくった。実験で行う(行った)操作の意味や金属イオン分離に関する考え方を補強するような目的で、授業に利用できたらよいと考えている。
3ホームページの内容と特徴
ここで取り上げた金属イオンは、6種類(Ag+、Cu2+、Fe3+、Zn2+、Ca2+、Na+)である。系統分離の際に分類されている1〜6属から1つずつ選んである。
沈殿反応のページにおいては、各イオンに塩酸、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水、硫化水素を加えたときの反応を画像で見ることができる。授業の補助教材として使用されている図解資料1,2)における金属イオンの沈殿反応のページのI−net版といえば分かりやすいかもしれない。
系統分離のページにおいては、先の6種類の金属イオンを含む水溶液から、1種類ずつイオンを分離していく手順を画像で示してある。図解資料との違い(これがこのページの最大にして唯一の特徴なのであるが)は、正しくない操作をするとどうなるかも見られる点にある。いろいろな試薬を加えたときの結果が入力されており、誤った操作をした場合には、その操作が適切でない理由も確認できる。
系統分離の手順については、試行錯誤で正しい道筋を見いだすことも可能である。ページ上で誤った操作を重ねることにより、次のようなことを理解させることが可能である。
・どの試薬でどのイオンが沈殿するかという情報だけでは考えつくことが困難な、煮沸、酸化剤の添加といった操作の意味
・過剰に加えると生成した沈殿が再溶解するような試薬を沈殿剤として用いることはできないこと(例えば、銀イオンにアンモニア水を加えるとき、アンモニア水が不足すると銀が全量沈殿しない。アンモニア水が過剰だと錯イオンとして再溶解する。このため、いずれの場合でも、系に銀が残ってしまうことになる)
・試料に含まれる金属イオンを含む試薬を用いてはならないこと(例えば、Na+を含む試料にNaOHを沈殿剤として使用すると試料由来のNa+か試薬由来のNa+か区別できなくなる)
4授業における利用法
(1)使用にあたっての基本的な考え方
このページは実験の代用として使うのではなく、あくまでも、この分野に関する生徒の考えを補強するような目的で利用すべきものである。たとえば、次のような展開で利用することが考えられる。
・6種類の金属イオンについて沈殿反応の実験をする。(1時間)
・実験結果をこのページによって確認し、生成した沈殿の化学式を調べさせる。また、実験によって得た沈殿反応の結果をもとに、1種類ずつ沈殿させていくためにはどのような順序で試薬を加えていったらよいか、という操作手順を考えさせる。(1時間)
・考えた手順をこのページでたどり、考えた操作手順の是非を確認させる。誤った場 合には、正しい方法を探させるとともに、なぜその操作ではいけないかについて記録させる。(1〜2時間)
・金属イオン系統分離の実験を行う(時間や難度を考慮すると、3〜4種類のイオンにしぼって実験した方が効果的かもしれない)。(1時間)
なお、容量は750kb程度なので、あらかじめダウンロードしておいてオフラインの状態で使用することも可能である。
(2)授業における留意事項
生徒は金属イオンの沈殿反応を脈略のないいわゆる暗記物としてとらえがちである。沈殿の形成を溶解平衡(溶解度積)や金属のイオン化傾向と関連づけて示すようにしたい。
CO32-についてはNa+、K+以外の金属イオンと沈殿をつくるが、CO32-の沈殿には加水分解によるOH-由来の沈殿が混ざることが多く、ふつうはCa2+、Ba2+との反応以外高校の化学では扱っていない4)。沈殿反応の結果だけから考えると、系統分離の際に早い段階でCO32-によってCa2+を沈殿させる方法が思い浮かぶが、これは上述の理由によりうまくいかない。そのためこのページには、早い段階でCO32-を加える操作は入れていない。しかし、このことに疑問を感じる生徒もいるはずである。
系統分離の実験を行う場合、実験書に、それぞれの試薬を加えたときに各イオンがどう変化するか、最後の試料中に存在している陰イオンは何かなどを答えさせる欄をつくっておくと生徒の理解が深まるのではないだろうか。
5おわりに
ページ中で系統分離の手順をたどっていく際に、自分がたどってきた履歴が表示されると、より使いやすくなると考えている。
系統分離の手順を考える際、沈殿反応の結果だけをもとに考えると、早い段階でアンモニア水によってFeを沈殿させる方法でも分離可能と思える。この方法は本報告の実験範囲ではうまくいかなかった(詳しくはWWWページ参照)。その理由として理論的な説明をしていない部分は今後の課題である。
このページについて皆様からご批判いただき、より良いものにしていけたら幸いに
思います。
なお、本報告は、栃木県総合教育センター紀要第6号(3)(1999)に紹介された内容の一部について加筆修正を行い、作成したものである。
6資料
7参考文献
(1)「フォトサイエンス化学図録」 数研出版
(2)「図解フォーカス総合化学」 啓林館
(3)「増訂化学実験辞典」赤堀四郎、木村健二郎監修 講談社
(4)「化学反応の系統学習」 三上豊男著 三省堂
Ryoichi Ohmori
Tochigi prefectural Haga High School
Graduate School of Education, Utsunomiya University
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