「化学教育ジャーナル(CEJ)」第3巻第2号(通巻5号)発行1999年12月25日/採録番号 3-12/受理1999年12月 2日
URL = http://www.juen.ac.jp/ scien/cssj/cejrnl.html

塩の加水分解と水溶液の液性についての指導


栃木県立芳賀高等学校(現 宇都宮大教育学研究科理科教育専修院生) 

大森 亮一
ga2273@i.bekkoame.ne.jp


1.はじめに

 塩の加水分解については化学IBで扱われている。そこでは、塩の水溶液が酸性か塩基性か、または中性か区別することが要求される。しかし、この問題を一般化して考えるためには、弱酸(弱塩基)の電離平衡の概念が必要であり、化学IBの範囲を超えている。 そこで、この単元の指導方法について、加水分解を中和反応の逆反応と見る立場から考察したい。


2.一般的な扱い方

 一般的に、塩の水溶液のpHは、近似的に次のように表すことができる。ただし、これは高校の範囲をこえている。

(1)弱酸HAと強塩基BOHの塩BA(c mol/l)の場合

[H+]=(KaKw/c)1/2    計算過程

(2)強酸と弱塩基の塩(c mol/l)の場合

[H+]=(Kwc/Kb)1/2    計算過程

(3)弱酸と弱塩基の塩(c mol/l)の場合

[H+]=(KaKw/Kb)1/2    計算過程

(注: 計算過程は、樫田1)による)


3.高校化学IB教科書での扱い

 教科書における説明を見てみよう。なお、次の抜粋は一部要約してあり、原文のとおりではない。

(1)数研出版2)
 弱酸の陰イオンや弱塩基の陽イオンが水と反応してもとの弱酸や弱塩基を生じる反応を、塩の加水分解という。酢酸ナトリウムCH3COONaの水溶液では、CH3COO-のごく一部は水溶液中の H+と結合して電離度の小さいCH3COOHを生じている。

CH3COO- + H2O ⇔ CH3COOH + OH-

 (筆者注:⇔の記号は可逆反応であることを示す記号の代用として使用した。以下同様である)したがって[H+]<<[OH-]となり、水溶液はアルカリ性を示す。

(2)啓林館3)
 弱酸や弱塩基から生じた塩が水と反応し、弱酸や弱塩基を生じて塩基性や酸性を示す現象を、塩の加水分解という。酢酸ナトリウムは、酢酸と水酸化ナトリウムとからできた塩である。酢酸ナトリウムを水に溶かすと、次式のように電離する。

CH3COONa → CH3COO- + Na+

 酢酸イオンの一部は水分子と反応して、酢酸分子が生成する。このため水溶液中の水酸化物イオンが増加して、水溶液は弱塩基性を示す。

CH3COO- + H2O → CH3COOH + OH-

 塩の加水分解とはまさにこれらのとおりなのであるが、私自身の学生時代を振り返ってみると、生成する酢酸は酸性の物質なのになぜ水溶液が塩基性なのかいまひとつ理解し難かった。

 

4.今までの自分の指導方法

 水溶液の液性の判定を他の塩についても一般化するため、今のところ表1のように、塩を作る酸と塩基の強弱から分類する方法で指導している。しかし、この方法は液性の判定には役立つが、現象の理解を深めるという観点からは望ましくないと思われる。

表1 酸・塩基の強弱とつくられる塩の水溶液の液性
塩をつくるもとの
酸・塩基の強弱
強塩基
弱塩基
強酸  
 酸性塩   NaHSO4   酸性

 正塩    NaCl    中性

 塩基性塩  CaCl(OH)  塩基性
     (水にほとんど不溶)
 MgCl2    酸性

 NH4Cl    酸性

 Cu(NO3)2   酸性
弱酸
 
 CH3COONa   塩基性
 
 Na2CO3  塩基性

 KHCO3  塩基性
 CH3COONH4  中性

 NH4HCO3  中性

 (NH4)2CO3  中性

表1の見方

(1)例えばNaClは、強酸(HCl)と強塩基(NaOH)の中和によって生じる塩であるが、強酸と強塩基から生じる塩の水溶液の液性は3通りである。酸性塩なら酸性、塩基性塩なら塩基性、正塩なら中性である。NaClは正塩なのでその水溶液は中性を示す。
(2)ただし酸性塩、塩基性塩などの名称は、一般の塩の水溶液の液性を示すものではない。例えば、KHCO3は酸性塩だが、その水溶液は塩基性を示す。
(3)弱酸と強塩基の中和によって生じる塩の水溶液は、塩基性を示す。
(4)強酸と弱塩基の中和によって生じる塩の水溶液は、酸性を示す。
(5)弱酸と弱塩基からできる塩の液性は、2.(3)の式から必ずしも中性とは言えないが、実用上中性と説明している教材も多い。


5.加水分解を中和反応の中和点における逆反応と見る立場からの指導

 酢酸ナトリウムは酢酸と水酸化ナトリウムとからできた塩であるが、この反応の中和点における逆反応が加水分解である。下式の右辺において酢酸の電離が小さいとすれば、[H+]<<[OH-] となることがイメージしやすい。電離度の大小をイオン式や図などで表現することにより、理解が深まるのではないだろうか。

CH3COONa + H2O ⇔  CH3COOH + NaOH
CH3COO- + Na+ + H2O ⇔ CH3COOH + Na++ OH-


水溶液は塩基性となる。

加水分解

中和

上の反応をGIFアニメで見る

 また、例えば塩酸とアンモニア水の中和滴定においては、指示薬として(フェノールフタレインではだめで)メチルオレンジを用いる。このため生徒は、中和点が必ずしもpH=7でないことを使用する指示薬というかたちで学んでいるが、それが加水分解という逆反応のためであるということを知らない。  
 これまで、中和と塩の加水分解は別々の現象であるかのように扱われてきたが、「中和点における水溶液の液性は中性とは限らず、それは生成した塩の加水分解のためである」というかたちで扱ったらどうだろか。電離度という概念を強調し、図式などを併用することが、理解に役立つと思われる。
 最後に、この観点に立って他の代表例を示す。

(1)NH4Cl

NH4+ + Cl- + H2O ⇔ NH3 + H2O + H+ + Cl-

水溶液は酸性となる

加水分解


中和

上の反応をGIFアニメで見る

(2)NaHCO3

Na+ + HCO3- + H2O ⇔ Na+ + OH- + H2CO3

水溶液は塩基性となる。

加水分解


中和

上の反応をGIFアニメで見る

(3)Na2CO3

2Na+ + CO32- + 2H2O
↑↓
(2Na+ + OH- + HCO3- + H2O)
↑↓
2Na+ + 2OH- + H2CO3

水溶液は塩基性となる(この反応で平衡はほとんど最上段の式に偏っている) 。

加水分解


中和

上の反応をGIFアニメで見る

(4)NaHSO4

 強酸と強塩基からできる塩の場合には、水溶液の液性は、加水分解ではなく電離によってもたらされる。

Na+ + H+ + SO42- + H2O ← Na+ + OH- + H+ + H+ + SO42-

水溶液は酸性となる(右辺の一組のH+とOH-は互いに性質を打消しあうと考える)。

 中和 

上の反応をGIFアニメで見る


6.参考文献

1)樫田 豪利:溶液における平衡,化学教育ジャーナル (CEJ),2(2),  http://www.ed.kanazawa-u.ac.jp/~kashida/chapter2/sec4/c245.htm
2)改訂版 高等学校 化学IB,数研出版,平成9年
3)高等学校 標準 化学IB 改訂版,新興出版社啓林館,平成9年



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